歯周病治療

歯を失う一番の原因は歯周病

よく誤解されますが、歯は老化現象で抜け落ちるわけではありません。細菌感染症である歯周病により抜けてしまうのです。歯周病は、歯肉の溝に住みついてしまう歯周病菌が出す毒素により、歯の周りの組織が破壊されて、最後には歯を支える骨までが溶けてしまい歯が抜け落ちる病気です。例え高齢者であっても、歯周病菌に感染しなければ、アゴの骨が溶けて、歯が抜けてしまうことはありません。
歯周病は細菌感染症ですが、それを治療するための抗菌剤を飲み続けると、かえって菌が強力になったり、ある細菌が減ることにより別の菌が増えたりしてお口の中の菌のバランスを崩してしまいます。また、歯周病菌がもっている内毒素に対して白血球は敵がいると判断し、働き続けることにより、そのことがかえってアゴの骨を溶かす発端を作っているのです。ですから、この内毒素の除去を行わないと骨が溶けるのを止められません。

歯の健康と体の健康は繋がっている

歯周病菌が身体に及ぼす影響

歯周病菌の中には、白血球に対し働きを抑制する物質を出して、白血球からの攻撃をたくみに逃れる頭脳明晰な菌がいるのです。ですから歯周病菌に感染すると、白血球の免疫が効かず、総入れ歯になるまで歯周病菌はアゴの骨をむしばみ続けるのです。歯周病菌のもっている内毒素に引き寄せられ、錯乱した白血球が過剰に出すさまざまな物質は、歯周組織の破壊だけでなく、それが血液中に侵入すると心臓病や糖尿病、あるいは低体重児早産の原因ともなります。
また、高齢者による肺炎の多くは、歯周病菌もしくは入れ歯の内部にたまった細菌による感染によって起きているのです。

今や歯周病に発症年齢の制限はありません。親や身近な方が歯周病菌をもっていれば、唾液を介する行為によって感染する可能性が高くなります。その証拠に0~15歳の2人に1人がもうすでにスピロヘータ(強力な歯周病菌)に感染している日本の現状があるのです。

歯周病が関わる主な全身疾患

  • 糖尿病

    血糖値をコントロールする機能が低下する病気です。歯周病菌が血管内に侵入することにより、血糖値を下げるインスリンの働きを邪魔します。
    これにより糖尿病が発症しやすくなったり、既に糖尿病の方はより悪化してしまうのです。

  • 心臓病・脳卒中

    歯周病菌が、腫れた歯ぐきを通って全身の血管内に侵入することがあります。これにより、プラーク(歯垢)が血管の中に溜まり、詰まってしまうことで症状が引き起こされると、医科でも注目され研究が進んでいます。

  • 高齢者の肺炎

    高齢者による肺炎の多くは、歯周病菌もしくは入れ歯の内部にたまった細菌による感染によって起きています。高齢になると食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまう可能性が高くなり、その際に細菌が一緒に肺に入ってしまうのです。

  • 早産・低体重児出産

    予定日より早くお産が始まったり、胎児が低体重のまま出産に至ることを指します。妊婦さんが歯周病にかかっているとこのリスクが高まります。また、親が歯周病菌をもっていれば、唾液を介する行為によって子どもにも感染する可能性が高くなります。

歯と脳の関係

「噛む」という行為による刺激は、常に脳に送られています。この刺激は、歯根の外側にある歯根膜によって伝わります。脳に刺激が送られることで、脳細胞が活性化し、老化を防ぐことができると言われています。
つまり、「自分の歯をいかに残すか」ということが老化の防止にもつながるのです。

大切なのはセルフケアとプロケアの2つの力

  • 毎日の歯磨きでセルフケア

    歯ブラシは、多少なりとも歯周病菌を掻き出すことができても、それを殺菌することはできません。いくらブラッシングを適正に行って、こすったり潰したりしても歯周病菌は平気で生きているのです。
    歯周病菌は、赤血球のヘモグロビンに含まれる鉄イオンを栄養源として生きています。そのため、歯みがきなどで出血するということは、歯周病菌にとって最高のごちそうを与えているのと同じことです。それによって、歯周病菌は爆発的に繁殖するのです。

  • 歯科医院でプロケア

    歯石はただの汚れではなく細菌の住処です。歯石にはたくさんの細菌が生息しており、歯と歯ぐきの間にたまった歯石は歯磨きでは取ることができません。プロの手で確実に除去することが必要です。

当院の歯周病治療

エムドゲイン療法(歯周組織再生療法)

歯周病は、歯肉だけでなく、中程度~重症になると歯を支えるあごの骨まで溶かしてしまう感染症です。従来は、歯茎が下がってしまった歯周病に対して「フラップ手術」といって手術で感染した部分を取り除く方法が行われていました。ところが、このフラップ手術では骨を回復させることができないため歯根が露出したままとなり、知覚過敏になりやすかったり、審美的にも歯が長く見えてしまうという問題点があります。
エムドゲイン療法は、骨の回復を促す薬剤を塗布することで歯肉だけではなく骨の再生も促す再生医療です。骨が再生すれば歯茎も盛り上がるため、見た目も改善されます。

エムドゲイン療法の適応症

エムドゲイン療法はすべての歯周病の患者さんに使えるというわけではありません。基本的には、骨の一部が失われている「垂直性骨欠損」「根分岐部病変」「歯肉退縮」の場合に限って適応することができます。ですから、歯の全周で歯肉が下がっている重度の歯周病では骨を再生させることは困難です。 治療を行う際には、エムドゲイン療法が適応できるかを確かめるため、入念な検査を行います。

エムドゲイン療法の流れ

  1. Step01
    歯肉の切開

    麻酔をして、歯肉を切開します

  2. Step02
    汚れ・歯石の除去

    歯頚の裏側にある歯根を露出させ、汚れや歯石を除去します

  3. Step03
    薬剤の塗布

    骨が減少した部分に骨の再生を促す薬剤を塗りこみます

  4. Step04
    抜糸

    1週間ほど経ってから抜糸します

リグロス歯周組織再生療法

リグロス歯周組織再生療法は、エムドゲイン療法と同じように、骨の再生を促す薬剤を塗布して歯周病で失われてしまった歯周組織を回復させる治療法です。違いは薬剤に使われている成長因子の種類にあり、エムドゲインは豚の歯胚から抽出されたエナメル基質タンパク質を用いますが、リグロスはbFGFというヒトの成長因子を用います。エムドゲイン療法と同様に、条件にもよりますが高い治療成績を収めています。
リグロス歯周組織再生療法は2016年から保険適用となったため、保険診療の範囲内で使用することができます。

リグロス歯周組織再生療法の適応症

リグロス歯周組織再生療法も、エムドゲイン療法同様、すべての歯周病の患者さんに使えるというわけではありません。リグロスの適応症は、垂直性骨欠損です。リグロスの薬剤は液状なので、液状の薬剤が留まって流れ出ないような骨の失われ方である必要があります。
ですから、歯の全周で歯肉が下がっている場合や、骨の失われた幅が広い場合では薬剤が定着せず本来の効果が期待できません。治療を行う際には、事前に検査を実施しリグロス歯周組織再生療法を適応できるかを十分検討する必要があります。

リグロス歯周組織再生療法の流れ

  1. Step01
    歯肉の切開

    麻酔をして、歯肉を切開します

  2. Step02
    汚れ・歯石の除去

    歯頚の裏側にある歯根を露出させ、汚れや歯石を除去します

  3. Step03
    薬剤の塗布

    骨が減少した部分に骨の再生を促す薬剤を塗りこみます

  4. Step04
    抜糸

    1週間ほど経ってから抜糸します

エムドゲイン療法(歯周組織再生療法)とリグロス歯周組織再生療法の違い

エムドゲイン療法とリグロス歯周組織再生療法は、どちらも中程度~重度の歯周病で失われてしまう歯周組織の再生を促す治療法で、治療のやり方にもほとんど違いがありません。
相違点を挙げるとすれば、エムドゲイン療法には健康保険が適用されませんが、リグロス歯周組織再生療法は健康保険の適用のため、患者さんが負担する費用を軽減させることができるということです。ただし、エムドゲイン療法の方が早く開発され、1990年代から世界中で多数の治療実績が積まれてきたのに対し、リグロスは比較的新しい治療法のため臨床結果の実績はまだまだこれからという面は否めません。
どちらの治療法を選択するのかは、患者さんの希望を伺いながら、相談の上で決めています。

歯肉移植術

歯肉移植術は、主に歯周病によって下がってしまった歯茎の位置を調整したい場合に行われる外科手術の一つです。他の部位から取り出した健康な歯肉組織を損傷した部位に移植し、歯を支えるために適切な歯肉状態を回復させます。審美歯科治療の一環として行うことも多く、歯周形成外科とも言われています。
歯茎が下がることを歯肉退縮と呼びますが、歯肉退縮は見た目の問題だけではなく、歯が動揺しやすくなったり、露出した歯根が虫歯になってしまったり、歯の健康にも悪影響を及ぼすため、早めの処置をおすすめいたします。
歯肉移植術には緻密さと高度なテクニックが求められるため、どの歯科医院でも受けられるものではありません。「歯が長くなったように見える」とお悩みの方は、ぜひご相談ください。

歯肉移植術の適応症

歯肉移植術は全ての歯茎が適応になるわけではありません。重度な骨吸収を伴う歯周病を伴う歯や、歯茎が痩せた原因の特定・除去ができない場合などは移植できません。また、下がってしまった歯茎の位置によっては移植の難易度は上がり、場合によっては手術を2回以上行うこともあります。

歯肉移植術の流れ

  1. Step01
    歯肉組織の採取

    健康な歯肉組織を切り取る歯茎と、移植する歯茎に麻酔をし、必要な歯茎のサイズや厚さを確認してメスで切り取ります

  2. Step02
    歯茎の移植

    移植する歯茎を切開し、採取した健康な歯肉組織を移植先の周囲の組織と縫い合わせて固定します

  3. Step03
    移植元の止血

    歯肉組織を切り取った方の傷口は、専用の材料やマウスピースで止血します

  4. Step04
    抜糸

    1〜2週間後に抜糸します

定期的にメインテナンスを

当院でのメインテナンスでは、歯周検査、位相差顕微鏡(菌の活動性を調べます)、むし歯のチェック、生活習慣のチェック、全身の栄養バランスのチェック、ブラッシングチェック、歯石の除去などを行います。自己判断からくる間違った症状の把握を防ぎ、プロフェッショナルが一人ひとりに合ったメインテナンスプログラムをご提案致します。
3~6ヶ月に1度、ぜひ当院にお越し頂き、メインテナンス治療を受けてください。歯を守ることは、他の誰でもない、あなた自身のためなのです。